【書評】藤田晋『勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術』|28期連続増収を実現した経営者が明かす”判断力”の本質

プロジェクトの予算増額を提案すべきか、それとも保守的に進めるべきか。新規事業に全力投球すべきか、既存事業を守るべきか。こうした判断の連続が、ビジネスパーソンの人生を左右します。
サイバーエージェントを創業28期連続増収、売上高8000億円超の大企業に育て上げた藤田晋氏が、社長退任を前に「最も伝えたいビジネスの最強鉄則」としてまとめたのが本書『勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術』です。麻雀、競馬、経営——あらゆる勝負の場で培われた「押し引き」の判断力は、ビジネスパーソン全員に共通する普遍的なスキルです。
本書の概要:社長退任前に綴った13万字の集大成
著者の藤田晋氏は、1973年福井県生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、インテリジェンス(現パーソルキャリア)を経て、1998年にサイバーエージェントを創業しました。2000年には当時史上最年少の26歳で東証マザーズ上場を果たし、現在は東証プライム市場に上場する大企業へと成長させました。
本書は、藤田氏が週刊文春で連載していたコラム「リーチ・ツモ・ドラ1」をベースに、社長退任を2026年に控えたタイミングで書き下ろした一冊です。発売わずか6日で5万部を突破し、各書店のランキングで1位を獲得するなど、大きな反響を呼んでいます。
特筆すべきは、単なる成功体験の羅列ではなく、ABEMAの10年越しの黒字化、FC町田ゼルビアの天皇杯制覇、競馬での世界最高峰レース制覇など、リアルタイムの経営判断と勝負の場面が赤裸々に語られている点です。
本書の要点まとめ:5つのポイント
ポイント1:「押し引き」が勝敗の9割を決める
麻雀でもビジネスでも、細かなスキルや知識よりも、押すべき局面で押せるか、引くべき局面で引けるかという判断が結果を左右します。この「押し引き」の見極めこそが、勝負眼の本質だと藤田氏は語ります。
ポイント2:撤退戦の難しさと重要性
攻めることよりも、引くこと・撤退することの方がはるかに難しい。組織のリーダーとして守る場面の方が多いからこそ、適切なタイミングでの撤退判断が経営者の真価を問われる場面だといいます。
ポイント3:Z世代マネジメントの新手法
若手社員の抜擢をシステム化し、「炙りマネジメント」と呼ばれる独自の手法で、時代に合わせた組織運営を実現。ハラスメント防止策やリモートワークの総括など、現代的な組織課題への対応も詳述されています。
ポイント4:投資判断は「人を見る力」が9割
数字やビジネスプランよりも、創業者の熱意と信念を重視する投資哲学。楽天への100億円出資やM&Aの判断基準など、具体的な投資エピソードから学べる内容が豊富です。
ポイント5:社交の場での「勝負眼」
ワイン外交、店選び、手土産の選び方まで——ビジネスの成否を分けるのは会議室だけではありません。社交の場での振る舞いが、長期的な人間関係構築にどう影響するかが語られています。
詳細解説:初心者でも実践できる3つの思考法
思考法1:「腹を決めて勝負に出る」判断基準
本書で特に印象的なのは、藤田氏が「腹を決める」という表現を繰り返し使っている点です。これは単なる精神論ではなく、情報を集め、分析し、最後は自分の信念と経験に基づいて判断を下すというプロセスを指します。
初心者が実践すべきステップ
- 十分な情報収集を行う(ただし情報過多で迷わない)
- 過去の類似ケースと照らし合わせる
- 最悪のシナリオを想定し、そのリスクが許容範囲か判断する
- 決断したら、迷わず実行に移す
この思考プロセスは、日々の小さな判断から大きな決断まで、すべてに応用できます。重要なのは「完璧な情報が揃うまで待たない」こと。ビジネスでは70%の確信があれば動くべきだと藤田氏は説いています。
思考法2:撤退のタイミングを見極める技術
攻めることは誰でもできますが、引くことは非常に難しい——これは本書の核心的なメッセージの一つです。特に、自分が立ち上げた事業や、多額の投資をした案件からの撤退は、感情的にも困難を伴います。
藤田氏は、東京ヴェルディの運営からの撤退など、自身の失敗経験も率直に語っています。重要なのは「サンクコスト(埋没費用)にとらわれない」という冷静な判断です。
撤退を判断する3つのサイン
- 市場環境が想定と大きく異なり、改善の見込みがない
- 投入するリソースに対してリターンが見合わない状態が続く
- コア事業に悪影響を及ぼし始めている
初心者が陥りがちなのは「もう少し頑張れば」という希望的観測です。本書を読むことで、冷静な損切りラインの設定方法が身につきます。
思考法3:先手必勝の実践法
「仕事も麻雀も連載も先手必勝」——本書ではこの言葉が繰り返し登場します。これは単に早く動けばいいという意味ではありません。
重要なのは、トレンドの兆しを察知したら、完璧な準備が整う前に小さく始めることです。ABEMAも、当初は赤字が続きましたが、「テレビの再発明」という大きなビジョンを掲げ、先手を打ち続けた結果、10年越しで黒字化を実現しました。
日常業務レベルでも、この思考は応用できます。会議で意見を求められたら真っ先に手を挙げる。新プロジェクトの打診があれば即座に立候補する。こうした小さな「先手」の積み重ねが、キャリアに大きな差を生みます。
この本を読むメリット・得られる変化
メリット1:判断スピードが劇的に向上する
本書を読むことで、「決められない」というビジネスパーソン最大の弱点を克服できます。藤田氏の判断基準を学ぶことで、自分なりの意思決定の軸が形成され、迷う時間が大幅に短縮されます。
メリット2:リスクテイクへの恐怖が減る
失敗を恐れて保守的になりがちな日本のビジネス環境において、本書は「適切なリスクの取り方」を教えてくれます。大胆な挑戦と慎重な撤退のバランス感覚が養われます。
メリット3:組織マネジメントの実践知が手に入る
Z世代の部下をどう育成するか、リモートワーク時代の組織運営をどう設計するか——理論ではなく、8000億円企業を率いる経営者の生々しい実践例から学べます。
メリット4:複数の分野で応用できる思考の型が身につく
麻雀、競馬、サッカー、経営——異なる分野での「勝負眼」に共通する原理原則を学ぶことで、自分の仕事だけでなく、投資や副業、さらには人生の選択にも応用できる普遍的な思考法が手に入ります。
この本が向いている人・向いていない人
こんな人におすすめ
- 意思決定に迷いがちな中堅ビジネスパーソン:判断基準の軸を作りたい方
- 初めて部下を持ったマネージャー:実践的なマネジメント手法を学びたい方
- 起業を考えている方:リスクとの向き合い方を知りたい方
- キャリアの転機を迎えている方:大きな決断を控えている方
- スタートアップで働く若手:成長企業のリアルな経営判断を知りたい方
こんな人には向かないかも
- 体系的な経営理論を学びたい方:本書はエッセイ形式のため、MBAのような理論書を求める方には物足りないかもしれません
- 即効性のあるノウハウを求める方:すぐに使えるテクニック集ではなく、思考法を学ぶ本です
- 藤田氏の価値観に共感できない方:著者の個人的な経験に基づいているため、合う合わないがあるかもしれません
他の人気ビジネス書との比較
| 書籍名 | 特徴 | 『勝負眼』との違い |
|---|---|---|
| 『ビジョナリー・カンパニー2』 ジム・コリンズ |
優良企業が偉大な企業になる条件を分析した研究書 | 『勝負眼』は個人の判断力に焦点。理論より実践重視で、読みやすさで勝る |
| 『リーダーの仮面』 安藤広大 |
マネジメントを5つのルールで体系化した実践書 | 『勝負眼』は判断の「タイミング」と「押し引き」に特化。より戦略的思考に焦点 |
| 『適応型リーダーシップ』 黒川公晴 |
ミネルバ大学が提唱する最先端リーダーシップ論 | 『勝負眼』は日本企業での実例が豊富。即座に参考にできる具体性が強み |
それぞれの本に独自の価値がありますが、『勝負眼』の最大の強みは「現在進行形の経営者の生の声」であることです。理論書では学べない、リアルタイムの判断プロセスが詰まっています。
まとめ:今日からできる「勝負眼」の磨き方
本書を読み終えたら、ぜひ以下の3つのアクションから始めてみてください。
今日からできる3つの実践
- 小さな判断で「先手」を意識する:会議での発言、プロジェクトへの立候補など、躊躇せず一番に手を挙げてみる
- 今抱えている案件の「引き際」を考える:継続すべきか撤退すべきか、冷静に判断基準を書き出してみる
- 1日1回、自分の判断を振り返る:なぜその判断をしたのか、結果はどうだったか、簡単に記録をつける習慣をつける
『勝負眼』は、ただ読むだけでなく、日々の判断の場面で繰り返し参照すべき実践書です。ページを折ったり、線を引いたりしながら、自分なりの「判断の教科書」として活用することをおすすめします。
28期連続増収という驚異的な成長を実現した経営者の思考法は、規模の大小を問わず、すべてのビジネスパーソンに応用できる普遍的な価値があります。
迷っている時間は、ライバルに先を越される時間です。この一冊が、あなたのビジネス人生における「押し引き」の精度を劇的に高めてくれるはずです。
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