「仕事ができる人」と「できない人」の差は、ほんの数センチ
同じ会社に入社したはずなのに、なぜか成果を出し続ける人と、日々の業務に追われるだけで成長を感じられない人がいます。その違いはどこにあるのでしょうか。
実は、仕事で成果を出す人は、入社1年目から「ある基礎」を徹底的に身につけています。それは、業種や役職に関係なく使える「普遍的なビジネススキル」です。
今回ご紹介する『コンサル一年目が学ぶこと』は、外資系コンサルティングファームの新人が叩き込まれる基本スキルを、一般のビジネスパーソンにも活用できる形で体系化した一冊。著者の大石哲之氏は、アクセンチュア(旧アンダーセンコンサルティング)で戦略コンサルタントとして活躍した経験を持ち、本書は累計23万部を突破したロングセラーとなっています。
「コンサルタント向けの本でしょ?」と思うかもしれません。しかし、この本で紹介されるスキルは、営業職、事務職、企画職、技術職など、あらゆる職種で活かせる「仕事の基本」です。実際、読者の多くがコンサル業界以外の方々であり、幅広い業種から支持を集めています。
著者・大石哲之氏のプロフィールと本書が生まれた背景
外資系コンサルから起業家へ
大石哲之氏は、1975年東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)の戦略部門に入社し、事業戦略の立案やM&Aなどのプロジェクトに携わりました。
その後、就職情報サイト「ジョブウェブ」の創業に参画。現在は株式会社ティンバーラインパートナーズの代表取締役として、投資家・作家としても活動しています。著書は20冊以上にのぼり、グローバル化やキャリア論、論理思考などをテーマに執筆を続けています。
なぜこの本が生まれたのか
本書が誕生したきっかけは、著者が様々な業界で活躍する元コンサルタントたちを取材したことにあります。彼らは業界も職種もバラバラでしたが、共通して「コンサル時代に学んだスキルは、15年後も役に立っている」と語っていました。
そこで著者は、業種・業界を問わず役立つ普遍的なスキルを30個に厳選。コンサルティングファームという「ビジネススキルの訓練所」で新人が学ぶ内容を、誰にでも活用できる形にまとめたのが本書です。
2014年の発売から現在まで読み継がれているのは、本書が単なる「コンサル業界のノウハウ本」ではなく、「一生使えるビジネスの教科書」だからでしょう。
本書の核心:30のスキルから厳選した5つのポイント
本書では30のビジネススキルが紹介されていますが、ここでは特に重要な5つのポイントをご紹介します。
ポイント1:話す技術(結論から話す)
ビジネスで最も重要なのは、相手に伝わるコミュニケーション。本書では「結論から話す」という基本中の基本が繰り返し強調されています。上司や顧客の時間は貴重です。前置きを並べるのではなく、まず結論を示し、その後に理由や根拠を補足する。このシンプルなルールを守るだけで、信頼度が大きく変わります。
ポイント2:思考の技術(ロジックツリーで考える)
複雑な問題を前にしたとき、「どこから手をつければいいか分からない」と途方に暮れることはありませんか。本書では、問題を構造的に分解する「ロジックツリー」の考え方が解説されています。大きな課題を小さな要素に分け、漏れなく・ダブりなく整理することで、解決策が見えてくるのです。
ポイント3:デスクワーク技術(エクセル・パワポの基本)
資料作成のスピードと品質は、仕事の成果を左右します。本書では、エクセルで数値を扱う基本ルールや、パワーポイントで「伝わるスライド」を作るコツが具体的に紹介されています。見やすいグラフの作り方、スライドの構成法など、すぐに実践できるテクニックが満載です。
ポイント4:プロフェッショナル・マインド(期待値を超える)
指示された仕事をこなすだけでは、評価は上がりません。本書では「相手の期待値を常に超える」というプロ意識の重要性が語られます。締め切りより早く納品する、求められた以上の情報を提供する。こうした小さな積み重ねが、信頼を築き、キャリアを開きます。
ポイント5:仮説思考(仮説を立てて検証する)
情報を集めるだけでは、時間がいくらあっても足りません。本書では「まず仮説を立て、それを検証する形で情報を集める」という効率的な仕事の進め方が紹介されています。仮説思考を身につけることで、限られた時間の中で最大の成果を出せるようになります。
各スキルを初心者向けに深掘り解説
「結論から話す」を実践するコツ
結論から話すことの重要性は誰もが知っています。しかし、実際にできている人は少数です。なぜでしょうか。
それは、「背景から説明しないと失礼だ」「経緯を話さないと理解してもらえない」という思い込みがあるからです。しかし、ビジネスの場では逆です。上司や顧客は結論を先に知りたいのです。
実践のコツは、話し始める前に「結論は何か」を自分の中で明確にすること。そして「結論から申し上げますと〜」「端的に言えば〜」といった枕詞を使うことです。これだけで、あなたの話は劇的に伝わりやすくなります。
ロジックツリーで思考を整理する方法
ロジックツリーとは、問題を樹木のように枝分かれさせて整理する手法です。例えば「売上を伸ばす」という課題があったとき、それを「新規顧客を増やす」「既存顧客の購入額を増やす」に分解し、さらに各要素を細分化していきます。
この手法の利点は、問題の全体像が見え、どこに注力すべきかが明確になることです。最初は紙に書き出すだけでも効果があります。慣れてくると、頭の中で自然に構造化できるようになります。
資料作成スキルが評価を変える
「内容が良ければ、見た目は関係ない」と思っていませんか。実際には、見づらい資料は読まれず、内容も評価されません。
本書では、エクセルの数値は桁区切りを入れる、グラフは軸ラベルを必ず表示する、パワーポイントは1スライド1メッセージにする、といった基本ルールが紹介されています。これらは知っているかどうかの問題であり、一度身につければ一生使えます。
期待値を超えるとは具体的に何をすることか
期待値を超えるというと、難しく聞こえますが、実は小さな工夫の積み重ねです。
例えば、上司から「A社の情報を調べて」と頼まれたとき、A社だけでなく競合のB社・C社の情報も添えて報告する。会議の資料を前日に提出するよう言われたら、2日前に提出する。こうした「+α」の行動が、信頼を生み出します。
重要なのは、相手が何を求めているかを想像し、その一歩先を提供すること。この習慣が、あなたを「仕事ができる人」へと変えていきます。
仮説思考で時間を10倍有効に使う
仮説思考とは、「おそらくこうだろう」という仮の答えを先に立て、それを確かめる形で行動する方法です。
例えば市場調査をする際、何も考えずにデータを集めると、膨大な情報に埋もれてしまいます。しかし「おそらく若年層の需要が高いはずだ」という仮説を立てれば、年齢別のデータを優先的に調べればよいと分かります。
仮説が外れても問題ありません。外れたこと自体が新たな発見です。仮説思考は、限られた時間で最大の成果を出すための必須スキルなのです。
この本を読むことで得られる変化とメリット
仕事のスピードが格段に上がる
本書のスキルを実践すると、まず仕事のスピードが変わります。結論から話すことで会議時間が短縮され、ロジックツリーで思考を整理することで迷いがなくなり、仮説思考で無駄な作業が減る。こうした変化が積み重なり、以前の2倍、3倍の生産性を実現できます。
上司・顧客からの信頼が高まる
期待値を超える仕事を繰り返すことで、周囲からの評価が変わります。「あの人に頼めば安心」「次も彼に任せよう」という信頼が生まれ、重要なプロジェクトを任されるようになります。信頼は、キャリアにおける最大の資産です。
どの業界・職種でも通用する力が身につく
本書のスキルは、特定の業界や職種に依存しません。営業でも、企画でも、技術職でも、経営者でも使えます。転職や異動があっても、このスキルセットは変わらず役立ちます。一度身につければ、一生の武器になるのです。
自分で考え、行動できるようになる
本書を読むと、「指示待ち」から脱却できます。仮説思考や問題解決の技術を身につけることで、自分で課題を見つけ、自分で解決策を考え、自分で実行できるようになります。これは、どんな組織でも求められる人材像です。
この本が向いている人・向いていない人
こんな人におすすめ
社会人1〜3年目の方
入社したばかりで「仕事の基本」を体系的に学びたい方には最適です。本書を早い段階で読むことで、同期と大きく差をつけることができます。
成果が出ず悩んでいる中堅社員
「がんばっているのに評価されない」と感じている方にこそ読んでほしい一冊。基本スキルの見直しで、停滞を打破できます。
就職活動中の学生
社会人になる前に「ビジネスの基本」を知っておくことで、スタートダッシュが変わります。面接でも、本書の内容を活かした受け答えができるでしょう。
転職を考えている方
業種を変える転職でも、本書のスキルは変わらず通用します。新しい環境で早期に成果を出すための土台になります。
こんな人には向いていないかも
すでに管理職として成果を出している方
本書は「一年目」向けの基礎に焦点を当てています。すでに高い成果を出しているマネージャー層には、物足りない内容かもしれません。
具体的な業界知識を求める方
本書は普遍的なスキルを扱っており、特定業界の専門知識は含まれません。業界固有のノウハウを求める方は、別の専門書を選ぶべきでしょう。
すぐに使えるテンプレートが欲しい方
本書はスキルの「考え方」を教える本であり、コピペで使える資料テンプレート集ではありません。実践と応用が必要です。
他の人気ビジネス書との比較
『入社1年目の教科書』(岩瀬大輔 著)との違い
『入社1年目の教科書』は、仕事への姿勢やマインドセットに重点を置いた本です。「遅刻しない」「メモを取る」といった基本的な習慣が中心で、社会人としての心構えを学べます。
一方『コンサル一年目が学ぶこと』は、より実践的なビジネススキルに焦点を当てています。ロジカルシンキング、資料作成、仮説思考といった「技術」が具体的に解説されており、すぐに業務で活用できる内容です。
両者は補完関係にあり、『入社1年目の教科書』で心構えを学び、『コンサル一年目が学ぶこと』で具体的スキルを身につけるという読み方がおすすめです。
『イシューからはじめよ』(安宅和人 著)との違い
『イシューからはじめよ』は、マッキンゼー出身の著者による問題解決の本質を扱った名著です。「本当に解くべき問題は何か」という根本的な問いを重視し、思考の深さを追求します。
『コンサル一年目が学ぶこと』は、より幅広く、すぐに実践できるスキルをカバーしています。思考法だけでなく、コミュニケーション、資料作成、仕事への姿勢まで網羅しており、初心者にも取り組みやすい構成です。
『イシューからはじめよ』が「深く考える技術」なら、『コンサル一年目が学ぶこと』は「広く使える技術」。どちらも価値がありますが、まず基礎を固めたいなら本書から始めるのが良いでしょう。
『ロジカル・シンキング』(照屋華子・岡田恵子 著)との違い
『ロジカル・シンキング』は、論理的思考とコミュニケーションに特化した専門書です。MECE(漏れなくダブりなく)やピラミッドストラクチャーなど、体系的な論理思考の技術を学べます。
『コンサル一年目が学ぶこと』は、論理思考も含みつつ、より実務的で多岐にわたるスキルを扱います。30のスキルが紹介されており、一冊で幅広い基礎力を身につけられるのが特徴です。
論理思考を極めたいなら『ロジカル・シンキング』、仕事全般の基礎を固めたいなら『コンサル一年目が学ぶこと』という使い分けができます。
まとめ:今日から始められる3つのアクション
『コンサル一年目が学ぶこと』は、業種・職種を問わず一生使えるビジネススキルを体系的に学べる一冊です。コンサルティング業界の新人が叩き込まれる「基本中の基本」を、誰でも実践できる形で解説しています。
本書を読んだら、まず以下の3つのアクションから始めてみてください。
アクション1:明日の会議で「結論から話す」を実践する
次の打ち合わせや報告の場で、意識的に結論から話してみましょう。「結論から申し上げますと」という一言から始めるだけで、あなたの話の印象が変わります。
アクション2:今抱えている課題をロジックツリーで整理する
紙を一枚用意し、今直面している問題を書き出してください。それを要素に分解し、樹形図にしてみましょう。問題の全体像が見え、何から手をつけるべきかが明確になります。
アクション3:次の仕事で「期待値+1」を目指す
依頼された仕事に対し、「もう一つ何か付け加えられないか」と考えてみてください。小さなプラスαの積み重ねが、あなたへの信頼を築いていきます。
仕事で成果を出し続ける人と、そうでない人の差は、才能や学歴ではありません。基本的なビジネススキルを身につけているかどうか、それだけです。
本書は、その「基本」を最短で身につけるための最良の教科書。新人からベテランまで、あらゆるビジネスパーソンにとって、手元に置いておきたい一冊です。
あなたのキャリアを変える一歩は、この本を手に取ることから始まります。


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