努力は報われない?「イシューからはじめよ[改訂版]」が教える、圧倒的な生産性の秘密
朝から晩まで働いているのに成果が出ない。やるべきことが多すぎて何から手をつければいいかわからない。そんな悩みを抱えているビジネスパーソンに、根本的な解決策を示してくれるのがこの一冊です。
「頑張れば報われる」は本当か?
毎日遅くまで残業して、休日も仕事のことを考えて、それでも評価されない。そんな経験はありませんか?
実は、努力の量と成果は必ずしも比例しません。本書『イシューからはじめよ[改訂版]』の著者・安宅和人氏は、この問題の本質を鋭く指摘します。多くの人が陥っている罠、それは「解くべき問題」を見極めずに、ひたすら作業を積み重ねる「犬の道」です。
本書は、マッキンゼーと脳神経科学研究という異色のキャリアから生まれた、知的生産の決定版。2010年の初版発売以来、累計60万部を突破し、ビジネスパーソンのバイブルとして読み継がれてきました。2024年9月に発売された改訂版では、新たなコラムや時代背景を踏まえた追加コンテンツが加わり、さらにパワーアップしています。
著者・安宅和人氏とは
安宅和人(あたか・かずと)
1968年富山県生まれ。現在はLINEヤフー株式会社シニアストラテジスト、慶應義塾大学環境情報学部教授として活躍中。
東京大学大学院で生物化学を修めた後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。その後、イェール大学で脳神経科学の博士号を取得(通常7年かかるところを3年9カ月で取得)。マッキンゼー復帰後は、マーケティング研究グループのアジア太平洋地域における中心メンバーとして活躍し、2008年からヤフー株式会社でCSO(Chief Strategy Officer)を10年務めました。
「脳科学×マッキンゼー×ヤフー」という異色のキャリアを持つ著者だからこそ語れる、ビジネスと研究に共通する普遍的な思考法が本書には詰まっています。
本書の核心:5つの重要ポイント
1. イシューとは何か
イシューとは、簡単に言えば「今、本当に答えを出すべき問題」のこと。より正確には、以下の2つの条件を満たすものです。
- 2つ以上の集団の間で決着のついていない問題
- 根本に関わる、もしくは白黒がはっきりしていない問題
著者は、世の中で問題だと思われているもののうち、実際にイシューと呼べるものは100個中2〜3個しかないと指摘します。つまり、多くの人が「なんちゃってイシュー」に時間を費やしているのです。
2. 「犬の道」を脱する
犬の道とは?
やみくもに量をこなして成果を出そうとする、非生産的な働き方のこと。本書では、これを「左回り」と呼び、警鐘を鳴らしています。
真に生産性の高い人は、まずイシュー度を高め(本質的な問題を見極め)、その後に解の質を上げるという「右回り」のアプローチを取ります。これにより、やるべきことは100分の1になります。
3. 仮説ドリブンの重要性
本書では、問題解決のプロセスを以下のように示します。
- イシュードリブン:解く前に「見極める」
- 仮説ドリブン:イシューを分解し、ストーリーラインを組み立てる
- アウトプットドリブン:実際の分析を進める
- メッセージドリブン:伝えるものをまとめる
特に重要なのが「仮説ドリブン」です。初期段階でストーリーラインと絵コンテを作ることで、無駄な分析を避け、本当に必要な検証だけに集中できます。
4. 良い仮説の条件
良い仮説には3つの条件があります。
- 本質的な選択肢である(答えを出す必要がある)
- 深い仮説がある(単なる表面的な問いではない)
- 答えを出すことができる(検証可能である)
例えば、「市場規模はどうか?」という単なる設問ではなく、「市場規模は縮小に入りつつあるのではないか?」と仮説を立てることで、初めて答えを出し得るイシューになります。
5. 価値の源泉は「イシュー度×解の質」
本書で最も重要な公式がこれです。
価値 = イシュー度 × 解の質
どちらか一方がゼロなら、どれだけ努力しても生産性のある成果は生まれません。だからこそ、まずはイシュー度を最大化することが重要なのです。
各ポイントを初心者向けに深掘り
「イシュー」を見極める技術
ビジネスの現場では、日々さまざまな「問題らしきもの」が発生します。しかし、その全てに取り組む必要はありません。
例えば、ある飲料ブランドが低迷しているとします。多くの人は「どうすれば売上を回復できるか?」と考えますが、これは問題が大きすぎて答えが出せません。本書では、こうした問題を「今のブランドで戦い続けるべきか、新ブランドにリニューアルすべきか」というイシューに分解することを提案します。
イシューを見極めるには、「この問いに答えることで、誰の、どの意思決定を変えられるのか?」を常に自問することが大切です。
「犬の道」から抜け出す具体的方法
多くの人は、情報を集めて、分析して、そこから答えを導き出そうとします。しかし、この「網羅的アプローチ」は膨大な時間がかかる上、本質的な答えにたどり着けないことが多いのです。
本書が提案するのは、最初に「仮の答え」を持つこと。そして、その仮説を検証するために必要な分析だけを行うという逆のアプローチです。これにより、作業時間は劇的に削減され、しかも精度の高い答えが得られます。
ストーリーラインと絵コンテの作り方
問題解決のプロセスでは、早い段階でゴールイメージを持つことが重要です。
ストーリーラインとは、イシューから答えに至るまでの論理の流れのこと。これを最初に設計することで、どこに注力すべきかが明確になります。
絵コンテとは、最終的なアウトプット(プレゼン資料やレポート)のラフ案のこと。これを作ることで、何を分析し、どんなデータが必要かが見えてきます。
検証のステップを効率化する
本書では、いきなり完璧な分析をするのではなく、粗くても良いから早い段階で検証可能性を確認することを推奨しています。
「このサブイシューは本当に検証できるのか?」「必要なデータは入手可能か?」といった問いに早めに答えることで、手遅れになる前に軌道修正できます。
この本を読むことで得られる変化
仕事のスピードが劇的に向上する
イシュー思考を身につけることで、やるべきことが明確になります。結果として、無駄な作業が減り、本当に重要なことに集中できるようになります。読者からは「仕事が100分の1になった」という声も。
本質を見抜く力がつく
表面的な問題に振り回されるのではなく、根本的な課題を見抜く力が養われます。これにより、的外れな提案や分析を避けられるようになります。
周囲を動かせるようになる
明確なストーリーラインを持つことで、上司や同僚を説得する力が高まります。「なぜこれをやるべきなのか」を論理的に説明できるようになるのです。
キャリアの選択肢が広がる
本書の思考法は、業界や職種を問わず応用可能です。コンサルタント、研究者、マーケター、事業開発担当者など、「価値を生み出す」仕事をする全ての人に役立ちます。
この本が向いている人・向いていない人
こんな人におすすめ
- 日々の業務に追われ、本当に重要なことに時間を使えていないと感じている人
- 努力しているのに評価されないと悩んでいる人
- 問題解決や企画立案に関わる仕事をしている人
- コンサルタント、研究者、マーケターなど知的生産が求められる職種の人
- ロジカルシンキングの次のステップを学びたい人
- AI時代に求められる「本質を見抜く力」を身につけたい人
あまり向いていないかもしれない人
- すぐに使える具体的なテンプレートやツールを求めている人(本書は思考の枠組みを提供するものです)
- 定型業務が中心で、問題解決や企画立案の機会が少ない人
- 抽象的な概念を理解するのが苦手で、より実践的な事例集を求めている人
ただし、将来的にマネジメントやリーダーポジションを目指す人であれば、今のうちから読んでおくことで大きなアドバンテージになるでしょう。
他の人気ビジネス書との比較
| 書籍名 | 焦点 | 特徴 | イシューからはじめよとの違い |
|---|---|---|---|
| 仮説思考 (内田和成) |
仮説の立て方と検証 | 情報不足でも仮の答えを持って動く重要性を説く。BCGの実践知が詰まった一冊。 | 「イシューからはじめよ」は「何を解くべきか」に焦点。仮説思考は「どう解くか」に重点。両方読むことで相乗効果あり。 |
| ロジカル・シンキング (照屋華子・岡田恵子) |
論理的思考の基礎 | MECEやピラミッド構造など、論理的に考え伝える技術を体系的に解説。 | ロジカルシンキングは「考え方の技術」。本書はその一歩先の「何を考えるべきか」を教える。 |
| 考える技術・書く技術 (バーバラ・ミント) |
ピラミッド原則 | 結論から始める構造化の技術。マッキンゼーの標準教材としても使われる古典的名著。 | ミントの本は「伝える技術」に強み。本書は問題設定から解決までの全プロセスをカバー。 |
どの本から読むべきか
もしロジカルシンキングの基礎がまだ身についていないと感じるなら、「ロジカル・シンキング」から始めるのも良いでしょう。しかし、ある程度の実務経験があり、「頑張っているのに成果が出ない」と感じているなら、本書『イシューからはじめよ』を先に読むことをおすすめします。
本書で全体像を掴んだ後に、「仮説思考」や「考える技術・書く技術」で個別スキルを深めるという順序が最も効果的です。
今日からできる実践のヒント
本書を読んだら、まずは小さなことから始めてみましょう。
1. 今日の仕事を「イシュー度」で評価する
朝、To-Doリストを見直し、「これは本当に今答えを出すべき問題か?」と自問してみてください。優先順位が見えてきます。
2. 会議前に「このミーティングのイシューは何か」を考える
漠然と会議に参加するのではなく、「この会議で本当に決めるべきことは何か?」を事前に考える習慣をつけましょう。
3. 分析を始める前に「仮の答え」を書き出す
データ収集や分析に入る前に、「おそらくこういう結果になるはず」という仮説をノートに書き出してみてください。検証の方向性が明確になります。
4. 「So What?(だから何?)」を口癖にする
情報や分析結果に対して、「だから何が言えるのか?」「それが分かると何が変わるのか?」を問う習慣をつけましょう。
5. 週に一度、自分の仕事を振り返る
金曜日の夕方など、週の終わりに「今週やったことのうち、本当にイシューだったものはどれか?」を振り返ってみてください。
まとめ:AI時代だからこそ読むべき一冊
AI技術の進化により、データ分析や情報収集はどんどん効率化されています。しかし、「何を問うべきか」「どの問題に取り組むべきか」という判断は、依然として人間にしかできません。
むしろ、AIが普及すればするほど、「本質を見抜く力」「適切な問いを立てる力」の重要性は高まっていきます。本書が14年間読み継がれ、改訂版が出た今も売れ続けているのは、この普遍的な価値があるからです。
著者の安宅氏自身も改訂版で述べているように、日本社会は依然として「空気ドリブン」が主流です。しかし、これからの時代を生き抜くには、空気ではなくイシューからはじめる思考法が不可欠です。
本書は単なるビジネス書ではありません。働き方、そして人生の質を根本から変える可能性を秘めた一冊です。「頑張っているのに報われない」と感じているなら、今こそ読むべき時かもしれません。
読者の声
「この本に出会って仕事の仕方が根本的に変わった」
「新卒の時から何度も読み返している私のバイブル」
「AIの時代だからこそ、この本の価値が際立つ」
『イシューからはじめよ[改訂版]』は、「読者が選ぶビジネス書大賞2025」イノベーション部門賞を受賞。NewsPicks選「21世紀のビジネス名著」ベスト100では第2位に選出されています。

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