はじめに 将来の株価を予測できたら、なんて思いませんか?
「将来の株価がどうなるか、少しでも予測できたら…」
株式投資をしている方なら、一度はそう考えたことがあるのではないでしょうか。しかし、経済指標や企業業績、市場心理など、株価に影響を与える要素はあまりにも多く、複雑です。専門家でも予測が難しい世界に、個人が立ち向かうのは無謀だと感じてしまうかもしれません。
また、「AIやディープラーニングが凄いらしいけど、プログラマーじゃないと無理でしょ?」「Pythonで株価予測なんて、何から手をつけていいか分からない…」といった悩みや不安を抱えている方も多いでしょう。
ご安心ください。この記事は、まさにそんなあなたのためのものです。この記事を最後まで読めば、以下のメリットが得られます。
- Pythonとディープラーニングによる株価予測の全体像が掴める
- 株価予測に必要なプログラミングの基礎知識が身につく
- 実際に手を動かしながら、自分だけの株価予測モデルを作る第一歩を踏み出せる
- AI技術を学ぶ楽しさと、その可能性を実感できる
本記事では、プログラミング初心者の方でも理解できるように、専門用語を避けつつ、Pythonとディープラーニングを使った株価予測の基本から実践的なモデル構築まで、一歩一歩丁寧に解説していきます。さあ、一緒に未来を予測するエキサイティングな旅を始めましょう!
なぜ今、Pythonとディープラーニングによる株価予測が熱いのか
最近、AI(人工知能)という言葉をニュースや雑誌で目にしない日はないですよね。その中でも特に目覚ましい進化を遂げているのが「ディープラーニング(深層学習)」という技術です。この技術の発展により、これまで人間には難しかった複雑なパターンをコンピュータが自ら学習できるようになりました。
株価の変動も、一見ランダムに見えて、その裏には何らかのパターンが隠されていると考えられています。この隠れたパターンを見つけ出すのに、ディープラーニングは非常に強力なツールとなるのです。
そして、そのディープラーニングを扱う上で、現在最も人気のあるプログラミング言語が「Python」です。Pythonは文法がシンプルで読みやすく、初心者でも学びやすいという特徴があります。さらに、データ分析やAI開発に役立つ優れたライブラリ(便利な道具セットのようなもの)が豊富に揃っているため、世界中の開発者や研究者に愛用されています。この「Python」と「ディープラーニング」という強力なタッグを組むことで、個人でも高度な株価予測モデルの開発に挑戦できる時代になったのです。
株価予測チャレンジの前に知っておきたい基礎知識
いきなりプログラミングを始める前に、少しだけ株価データと予測アプローチの基本について知っておきましょう。これを知っているだけで、この後の理解度がぐっと深まりますよ。
株価データの中身を見てみよう
私たちが分析に使う株価データには、主に以下の5つの基本情報が含まれています。これらは「OHLCV」とも呼ばれます。
- 始値 (Open): その日の取引が最初に成立した価格
- 高値 (High): その日の中で最も高かった価格
- 安値 (Low): その日の中で最も安かった価格
- 終値 (Close): その日の取引が最後に成立した価格
- 出来高 (Volume): その日に売買が成立した株式の総数
これらの過去のデータを時系列に並べたものを、AIに学習させていくことになります。
AI予測の位置づけ
株価の分析手法は、大きく分けて2つあります。
- ファンダメンタルズ分析: 企業の財務状況(売上、利益など)や経済全体の動向から、株価の「本質的な価値」を分析する手法です。
- テクニカル分析: 過去の株価チャートの動きやパターンから、将来の値動きを予測しようとする手法です。
ディープラーニングによる予測は、主にテクニカル分析の延長線上にあると考えることができます。過去の価格データ(OHLCV)の複雑なパターンをAIが学習し、「このパターンの次には、こう動きやすい」という傾向を見つけ出すアプローチだからです。
ディープラーニングとは?株価予測で主役となるモデル「LSTM」
ディープラーニングは、人間の脳の神経回路(ニューロン)の仕組みを模した「ニューラルネットワーク」を多層的に重ねたものです。層を深くすることで、より複雑な特徴を自動で学習できるのが大きな特徴です。
そして、株価のような「時間の経過とともに変化するデータ(時系列データ)」の予測で特に活躍するのが、「LSTM(Long Short-Term Memory)」というモデルです。
通常のニューラルネットワークは、入力されたデータがそれぞれ独立していることを前提としています。しかし、株価は「昨日の価格が今日の価格に影響する」ように、過去のデータとの連続性が非常に重要ですよね。LSTMは、過去の情報を記憶し、その中から重要な情報だけを選択して、未来の予測に活かすという特殊な仕組みを持っています。これにより、単に直前のデータだけでなく、より長期的な価格変動のパターンを捉えることが得意なのです。まるで、過去のチャートの形を記憶しているベテラントレーダーのようですね。
開発環境を整えよう!Pythonと便利なライブラリたち
さあ、いよいよ実践の準備です。ここでは、株価予測モデルを作るために必要なPythonのライブラリを紹介します。PCにPythonがインストールされていない場合は、先にインストールを済ませておいてくださいね。
以下のライブラリを、コマンドプロンプトやターミナルでインストールしましょう。
pip install numpy pandas matplotlib scikit-learn tensorflow yfinance
それぞれのライブラリの役割を簡単に紹介します。
ライブラリ名 | 主な役割 |
---|---|
NumPy | 数値計算を高速に行うためのライブラリ。AIの計算の土台となります。 |
Pandas | データを表形式で効率的に扱うためのライブラリ。株価データの読み込みや加工に必須です。 |
Matplotlib | データをグラフ化するためのライブラリ。予測結果を可視化するのに使います。 |
Scikit-learn | 機械学習全般の便利な機能を提供。今回はデータの正規化(後述)に使います。 |
TensorFlow | Googleが開発したディープラーニングのフレームワーク。LSTMモデルの構築や学習を行います。 |
yfinance | Yahoo! Financeから株価データを簡単に取得できるライブラリです。 |
【実践ステップ1】株価データの取得とAIが学習しやすい形への加工
準備が整ったら、早速データを取得して加工していきましょう。ここでの「加工(前処理)」が、AIの性能を大きく左右する非常に重要なステップになります。
1. 株価データの取得
まずは`yfinance`を使って、分析したい企業の株価データを取得します。今回は例として、トヨタ自動車(証券コード: 7203.T)の過去5年分のデータを取得してみましょう。
import yfinance as yf
import pandas as pd
# データを取得したい銘柄のティッカーシンボルを指定
ticker_symbol = "7203.T"
# データを取得する期間を指定
start_date = "2020-01-01"
end_date = "2024-12-31"
# yfinanceを使ってデータを取得
data = yf.download(ticker_symbol, start=start_date, end=end_date)
# 取得したデータの最初の5行を表示して確認
print(data.head())
2. データの正規化
次に、「正規化」という作業を行います。これは、データのスケールを一定の範囲(例えば0から1の間)に揃えることです。株価のように日々変動する大きな数値のままAIに学習させると、うまく学習が進まないことがあります。各データのスケールを揃えてあげることで、AIはより効率的にパターンを学習できるようになるのです。
from sklearn.preprocessing import MinMaxScaler
import numpy as np
# 今回は終値(Close)を使って予測する
close_prices = data['Close'].values
close_prices = close_prices.reshape(-1, 1)
# 0から1の範囲に正規化
scaler = MinMaxScaler(feature_range=(0, 1))
scaled_prices = scaler.fit_transform(close_prices)
【実践ステップ2】未来を予測するディープラーニングモデルを組み立てる
いよいよモデル構築です。ここではTensorFlow(内部的にはKerasという使いやすいインターフェース)を使って、LSTMモデルを組み立てます。プラモデルを組み立てるような感覚で、層を一つずつ積み上げていきましょう。
ここでは、「過去60日分の終値データを使って、次の1日分の終値を予測する」モデルを作ります。
# 学習データを作成
X_train = []
y_train = []
look_back = 60 # 過去60日分のデータを使う
for i in range(look_back, len(scaled_prices)):
X_train.append(scaled_prices[i-look_back:i, 0])
y_train.append(scaled_prices[i, 0])
X_train, y_train = np.array(X_train), np.array(y_train)
# LSTMに入力するために、データの形式を3次元に変換
X_train = np.reshape(X_train, (X_train.shape[0], X_train.shape[1], 1))
# --- ここからモデル構築 ---
from tensorflow.keras.models import Sequential
from tensorflow.keras.layers import Dense, LSTM, Dropout
model = Sequential()
# LSTM層を追加。ニューロン数は50
model.add(LSTM(units=50, return_sequences=True, input_shape=(X_train.shape[1], 1)))
model.add(Dropout(0.2)) # 過学習を防ぐためのドロップアウト層
# もう一つLSTM層を追加
model.add(LSTM(units=50, return_sequences=False))
model.add(Dropout(0.2))
# 全結合層(出力層)
model.add(Dense(units=25))
model.add(Dense(units=1))
# モデルの構造を確認
model.summary()
少し複雑に見えるかもしれませんが、やっていることは「LSTM層」という記憶装置を持った層を2つ重ねて、最後に「Dense層」で予測値を出力する、という流れです。
【実践ステップ3】モデルの学習と予測結果の評価
モデルが完成したら、次は学習(トレーニング)です。先ほど用意した過去の株価データをモデルに見せて、「このパターンが来たら、次の値はこうなる」というルールを何度も繰り返し学ばせます。
1. モデルのコンパイルと学習
学習を始める前に、「どうやって間違いを評価するか(損失関数)」と「どうやって賢くするか(最適化手法)」をモデルに教えてあげる必要があります。これをコンパイルと呼びます。
# モデルをコンパイル
model.compile(optimizer='adam', loss='mean_squared_error')
# モデルの学習を実行(エポック数は学習を繰り返す回数)
model.fit(X_train, y_train, epochs=25, batch_size=32)
2. 予測と結果の可視化
学習が終わったら、いよいよ未来の予測です。学習に使っていないデータ(テストデータ)を使って、モデルがどれくらい正確に予測できるかを確認しましょう。そして、Matplotlibを使って、実際の価格とモデルの予測価格をグラフにプロットして比較します。
(※テストデータの作成部分はコードが長くなるため、ここでは学習済みモデルで予測し、可視化するイメージを掴んでください。)
# (テストデータを作成する処理は省略)
# predictions = model.predict(X_test)
# predictions = scaler.inverse_transform(predictions) # 正規化を元に戻す
# # グラフで可視化
# plt.figure(figsize=(16,8))
# plt.title('Model Prediction')
# plt.xlabel('Date')
# plt.ylabel('Close Price JPY')
# plt.plot(train['Close'])
# plt.plot(valid[['Close', 'Predictions']]) # validは実績と予測を格納したデータフレーム
# plt.legend(['Train', 'Actual', 'Predictions'], loc='lower right')
# plt.show()
このグラフを見て、オレンジ色の予測線が青色の実際の価格の動きをうまく追随できていれば、モデルは上手く学習できていると言えるでしょう。
まとめと株価予測に挑戦する上での大切な注意点
今回は、Pythonとディープラーニング(LSTM)を使って株価を予測するモデルを構築する一連の流れを解説しました。データの取得から前処理、モデルの構築、学習、そして評価まで、一つ一つのステップを体験することで、AIによる株価予測の面白さと奥深さを感じていただけたのではないでしょうか。
今回作成したのは非常にシンプルなモデルですが、ここからさらに精度を高めるための様々な工夫が考えられます。
- 特徴量の追加: 終値だけでなく、出来高や移動平均線などのテクニカル指標を学習データに加える。
- ハイパーパラメータ調整: LSTMのニューロン数や学習回数(エポック)などを変えて、最適な組み合わせを探す。
- 異なるモデルの試行: LSTM以外の「GRU」といった別の時系列モデルを試してみる。
AIとプログラミングの世界は日進月歩です。ぜひ、この記事をきっかけに、あなただけの最強の株価予測モデル開発に挑戦してみてください。
最後に、非常に重要な注意点です。
本記事で紹介した内容は、あくまで金融工学とプログラミング技術の学習を目的としたものであり、特定の株式の購入を推奨したり、投資の利益を保証するものでは一切ありません。金融市場は、経済指標、国際情勢、予期せぬ出来事など、非常に多くの複雑な要因によって変動します。AIの予測は過去のデータに基づく統計的な推測に過ぎず、未来を保証するものではないことを強く認識してください。
実際の投資判断は、必ずご自身の責任において、十分な情報収集と分析のもとで慎重に行ってください。また、本記事の情報は執筆時点のものであり、ライブラリの仕様変更や新しい手法の登場により、情報が古くなる可能性がある点にもご留意ください。


コメント